大会委員長 挨拶

 ご挨拶

 

このたび、英語ユニバーサルデザイン研究会の第二回大会を開催させて頂くにあたって 一言ご挨拶申し上げます。

 

本研究会は2011年に「学び支援の会」という小さな勉強会として、数名の有志と共に神戸にて発足しました。当時、英語教育で見過ごされている学習障害のある子どもたちについての情報はほとんどなく、「適切な指導法がわからない」「何度教えても覚えてくれない」という悩みを抱える先生や保護者らの情報交換やつながりの場が求められていました。当時の「支援の会」は主に特別支援教育の観点から、英語圏のディスレクシア事情、子どもたちの認知的特性、学びのニーズや指導法について学ぶ場として、小さいけれども一歩を踏み出す役割を担ってきたのではないかと思います。

 

2015年には、特別支援という枠を越え、どの学校の、どの教室の、どの子にとっても楽しく、わかりやすい「ユニバーサルデザインの英語教育」について考えようという目標を掲げて『英語教育ユニバーサルデザイン研究会』と改名し、2016年には関東支部が発足、現在に至ります。

 

メンバーは皆手弁当で集まり、教室にいるAくんBちゃんへの指導の悩みや、読み書きの苦手な自分の子どもの苦しみ、保護者としての不安や指導の工夫などを分かち合ってきた仲間です。今日私がここにいるのは、決してこの分野における十分な知識や技量があるからではなく、過去の私のように、「子ども達のためになんとかしたい」という思いを持ちながらも孤軍奮闘している、全国に点在する人たちをつなげ、応援したいという願いのほかにありません。

 

また、本研究会の活動の真の意義は、英語教育における「子どもの学びの多様性」を教育現場において実現していくことであり、ある意味で特別支援教育と、教科教育をつなぐような、新しい分野を形作ることにあるのではないかと感じています。英語に関しては、2020年度から小・中・高の一貫した教科教育が始まります。学校や担当教員に求められるハードルが高くなっていく一方で、「どの子にもわかる」部分の保障もさらに難しくなることを感じます。「どの子にも」のなかには、従来の障害児童生徒や、多国籍の子ども、家庭や友人関係に問題を抱えている子どもも含まれます。情報として発達障害や学習障害を持つ子どもたちがいることは示されていても、英語学習においてはその実態や正確な割合の把握はおろか、”英語の適切な指導”については誰も答えを知らない状況です。

 

英語教育改革の波にただ流されるのではなく、いま少し立ち止まり、子どもの躓きを子どもの立場から見つめ直すところから始めなくては、「できないのは仕方がない」と切り捨てられてしまうのではないか。実際これまでもそうであったのではないか、という自戒の念も込めて「いま躓いている、困っている子どもへの英語指導」は、これから皆さんとともに答えを探していかねばならないと感じています。

 

だからこそ、わたしたちは一人で悩まず、一人で戦わず、一人も放置せず、多くの分野の専門家や立場の人たちとつながっていかなくてはなりません。ぜひ、一緒に探しに行きましょう。どなたも大歓迎です。

 
さて、本研究会の今年度のテーマは、「子どもの困り感からスタートする英語指導と支援」です。

 

基調講演でご講義下さる竹田契一先生は、日本に学習障害(LD)という概念を初めて紹介し、その後、日本の医療や教育現場において「見えない障害」に苦しむ当事者、保護者、そして指導者に対して希望の光をもたらして下さった先駆者のお一人です。当日は読み書きの障害についての基礎理解、そして英語でつまずくディスレクシアについての理解について最新の情報をお聞きできること心より楽しみにしています。

 

また、近年は小学校だけでなく中高でのアクティブラーニングの取り組みが進んでいます。CLIL(クリル)はヨーロッパを中心として急速に広がりを見せている学習法のひとつですが、理科や社会などの教科学習と英語学習を統合し、子どもたちの思考力、発信力を高めると同時に英語の習得を目指すものとして期待されています。教育講演でご講義下さる山野先生は、日本のCLILの取り組みの第一人者のお一人であり、学びの多様性をUDL(Universal Design for Learning : 学びのユニバーサルデザイン)の観点も取り入れて実現する試みをされています。

私の講義では、実際に主催している教室で出会った児童生徒への英語読み書き指導事例、そして指導方法についての検討と今後の課題について述べたいと思っています。

 

研究発表の部では、読み書き障害の理解について研究を深めておられる飯島先生より、子どもたちがどういったポイントでつまずいているのか、また現場の教員の理解はどのようであるかといったアンケート調査報告を頂きます。子どもたちの置かれている現状への理解が深まります。仲本先生は「通級」という非常に限られた条件のなかで、英語学習に不安を抱える児童へのアルファベット読み書き指導事例のご報告です。子どもの言葉、保護者の言葉が胸を打ちます。そして、今回は聴覚に障害のある英語学習者と向き合い、指導を行われている下谷先生のご発表もございます。言語学習で最も大切だと思われる「音」に大きな制約のある児童生徒への「英語指導」について、どのような取り組みが行われているのでしょうか。

 

 素晴らしい講師・発表者の先生方の理論と実践から学ぶことは多く、先生方をお迎えできることを心より光栄に思っています。

 参加される全ての方にとって、英語学習で困っている子どもたちにまずは寄り添い、躓きを理解し、指導の答えを一緒に探す機会になることを願っています。

 一言どころではなく、大変長くなってしまい失礼致しました。

 

 大会準備にあたっている運営スタッフ一同、当日皆様にお目にかかれますことを心より楽しみにしております。

神戸戸山手短期大学

  村上加代子